『8』の日担当山形建築研究所の山形です。9月になって少しづつですが秋の気配を感じるような・・・だんだん夜が長く感じられるようになってきました。そこで照明ではなくて『あかり』の話を・・・

色温度(いろおんど)と云う言葉をご存知ですか?写真の世界ではよく出てくる言葉です。蛍光灯のコマーシャルなどで『あたたかみのある温白色』とか『クールな昼光色』等と云っているものです。温度をあらわす言葉で表現していますが、光自体が暖かいわけでも冷たいわけでもありません。そういった印象を持つ光ということです。やさしく云うと『黄色い光』『白い光』と云うことです。太陽の光は、朝の黄色い光から日中の白い光、そして夕方また黄色い光へと変化しています。この繰り返しの中で人類はずっと昔から、昼間働き、夜休むという生活を続けてきました。暗くてモノがみえない夜よりも、明るい昼間のほうが活発に活動できるのだから当たり前と云えばあたりまえ。黄色い太陽が沈んだ後は、オレンジ色の焚き火やロウソク、ランプなどモノを燃やす光でくつろぎと安らぎの夜を過ごしてきたのです。このことを裏付けるように生理学的に白い光は心拍数の上昇を伴い、心理学的には黄色い光のほうが落ち着きを感じさせることが判っています。だから、人間にとって白い光は働く光で、黄色い光は休む光なのです。

 

キャンプに出掛けた時、夜の暗さと対照的な月や星の明るさ、想像以上にまぶしいくらいのランタンの光に気づく事があると思います。暗さがあるから明るさがあるという単純なことに気付いたり、何か忘れていた光景を思い出したりすることがあると思います。就寝するときはもちろん、誰かと喧嘩をしたとき、子供のころ親に叱られたとき、なんとなく暗いところに身を置きたくなりませんでしたか?多くの方が自分の個室や寝室に閉じこもりますよね。そんなときでなくても、家族から離れて一人考えごとをしたりするときは、リビングよりも暗いところのほうが落ち着きます。

昔のような『暗がり』が少なくなっています。住まいも仕事場も隅々まで明るく、どこでも新聞が読めるのが、明るさの常識のようになっています。明るさは日本経済の成長、豊かさの象徴のように思われています。

『明るい照明=明るい家庭』と思ってはいませんか?

スイッチを入れればいつでも明るさを確保できる、一見便利なこのシステムがあかりを楽しむという文化の邪魔をしているのかも知れません。あかりの楽しみ方は明るさだけでなく、光の拡散の仕方、高さ、色味、照らしたり照らされたりする方向、など様々な要素があります。それをひとつずつ変えてみることにあかりの楽しさがあるのです。ろうそくやランプのようなパワーの少ない光の時代のほうが、様々な工夫があったのではないでしょうか。

 

まず、試しに天井にある明るい照明を消して、部屋の隅のスタンドのスイッチを入れてみては?天井、壁、床と明るくするところを変えてみるだけで雰囲気は変わるはずです。明るさの感じも変わり、意外と明るいことに気付くはずです。こんな体験が「あかりっておもしろい。」という気持ちを芽生えさせてくれるでしょう。これこそあかり文化の入り口です。明るければ良いというのは、おなかがいっぱいになりさえすれば良いという食事と同じです。あかりを楽しむということは、おいしいものを食べたいという気持ちと同じです。さまざまなおいしい光を楽しむことこそが、豊かな住まいの『あかり』です。

 

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