家を建てるということは、実際の敷地に建築し、居住すること。
その敷地を選ぶということは、「その土地に立ち」「その街に住む」ということです。

新たに土地を探すという人は、どこに住むか、暮らしに最適な物件はどこか、
値段は妥当か、家づくりの条件として適しているか、などなど、
多大なエネルギーと時間を費やして良縁を求めておられるでしょう。
一方で、インスピレーションの如く、その土地に運命を感じて移住をきめた!
なんて方のエピソードも聞きます。

もともとその土地で育ってきたり、長年暮らしてきた人は
「土地探し」というプロセスを踏むことはないけれど、
家づくりに際して、その土地がどういう個性を持っているかは、重要な要素です。

住環境を考えたとき、その敷地や街が好きかどうか、愛着が持てるかどうか、
ということはその後の生活の質に大いに影響します。

なにより、暮らしはその住まいの中だけで完結するものではなく、
もちろん、環境としてのつながり、社会としてのつながりが発生するからです。
特に住宅街では、社会環境としての影響も大きく、人とのつながりが、
時に暮らしの安寧になれば、時にトラブルの種ともなる、非常にデリケートな側面を持つからです。

引っ越した後に、街といい関係をつくるための第一歩は、
まず街を観察してどんなものがあり、どんな人が暮らしているのかを知ること。
そのためには、歩く・見る・発見する。意外な風景を発見・再発見するかもしれません。
そのプロセスをとおして、何気ない街の面白さを発見したり、
「自分が関わる場所」としての愛着が生まれたり。

なんとなくそれまでより親しむことができたなら、
知らないでいる時より心がオープンになるでしょう。
心がオープンになれば、理想の暮らし方もちょっとずつオープンになり、家の形も変わってくるはずです。

住宅のかたちは、暮らしを「開く・閉じる」をコントロールしながら、
街や自然環境との距離感をつくりますが、住む人の心持ちというのは、その仕切り方に大きく関わります。

     

社会的な「閉じる・開く」は、家のかたちとしての「閉じ方・開き方」にそのまま表れます。
街と住まい、内と外の接点を「緩衝領域」「中間領域」といった表現をしますが、
日本の住まいには、もともと「土間」や「縁側」といった中間領域が大活躍していました。
その役割は、ノスタルジーではなく現代の暮らしにも大いにヒントになるものです。

 

設計者としては住まいの豊かさ、住まい方の豊かさ、精神的な豊かさにも直結するとも思っています。

その豊かさを享受できる条件の一つが、その街にしたしみ、自然環境を理解し、
上手に取り入れていくということ。

家づくりでは、自分の暮らしのほうに視点が偏りがちですが、
外壁の線・敷地境界線のその先にはどんな世界(社会)と風景が広がっているのか。
そんな視点をもつことで、間取りの質は格段に向上します。

まずは、その街のありのままを観察することを、自らが楽しんでみる。
そんな「街探検」のスタンスで、これからの街とのお付き合いをかんがえてみることをおすすめします。

ハピケン hapi-ken.com

村上建築設計室 murakami-design.com